夕刻、町内で買い物をした帰り道、
多勢の通行人がスマホ歩きをしている中、
三十代半ばくらいの男がただ一人だけ
単行本を片手にして
歩き読みしながら
颯爽と過ぎ去って行く、
のを見かけた。
おおっ!と思って、
その本の表紙を見たら、
凄く凄くマニアックな本格ミステリ
だったので、
再び、おおっ!
すれ違う瞬間、
向こうも
こちらを鋭く一瞥した。
何というか
本格ミステリに求道する者だけが放つ
同じ波動を
お互いに感じたのかもしれない。
そう、
侍同士が殺気を覚えるように。
心地よい緊張が走り、
風に呑まれ、黄昏に消える。
ほんの一瞬のことだった・・・