正月の或る日の夕刻、
隣り町の駅ビルの肉屋に寄って
惣菜の焼き鳥を
買おうと列に並んだんだよ。
前から三番目、すぐに俺の後ろにも数人のお客さんが並んだ。
で、その時はまだ
ショーケースの中に
幾種類もの
焼き鳥がたくさん残っていた。
が、最初のお客さんが立ち去り、
二番目の、つまり俺のすぐ前の番になると、
そのお客さん、
「ねぎま15本」とか「レバー20本」とか
大量注文を始めるではないか。
もう、みるみるうちにショーケースの中が空になってゆく・・・。
俺も、後ろの数人のお客さんも
悲鳴のように「ハーッ」と絶望のため息を漏らす。
でも、大量発注しているそのお客さんのこと責められないよな。
その人だって仕方ないのさ。
きっと、正月の来客や親戚のために
しっかり買ってくるよう家の人から厳命を受けてやってきたんだろうからさ。
それ、俺も、後ろのお客さんたちも、もちろん分かってるよ。
だから、黙って見てるしかないんだよ。
ようやく、そのお客さん買い物を終えると
こちらに視線を一切合わせようとせず、走るようにして去って行ったよ。
で、いよいよ俺の番だけど、
後ろのお客さんの人数を意識し、素早く計算しながら
ショーケースに残されたわずかな焼き鳥から
六本だけ買わせていただきましたよ、ええ。
あとは皆さん、どうか、くれぐれも仲良く分け合ってくださいね、
と胸の中で呟きながら、正月の雑踏へと身を沈めるのであった